「星の彼方に」






辺りには荒涼とした景色が広がっている。
神殿のような建物は崩れ落ち、大きな柱は真っ二つに折れてしまっていた。
多くの家屋は跡形も無く砂塵と化している。
強く乾いた風が吹き、がらり、と瓦礫が崩れる音がした。


灰色の世界にひとつだけ鮮やかな色が広っている。
鮮やかすぎて異様な黄色い花。
風が吹くたびに、ゆらゆらと花弁を揺らし、花粉を飛ばしている。
砂塵と見えるのは、もしかしたら大量の花粉なのかもしれない。
群れを成すように咲く大量の花は、まるで、この星の養分を吸い取っているようにも見える。





「はっ、はぁ・・・!」

瓦礫だらけの道を転がるように走る人影。
姿からすると若い女性のようだ。
彼女は、必死に、神殿のような建物に向かって走っている。


建物の中に入り、捜し求めた人物を眼にし、粗い息のまま銀髪の女性の背に向かい叫ぶ。

「ユザレ団長!ここは危険です!早くお逃げください!」

ユザレと呼ばれた銀髪の女性は振り向かず、静かに答える。

「どこに逃げる場所があるというのです。
ここは、私の星。私はこの星の警備団長です。
たとえ、業火に焼かれたとて、逃げるわけにはいきません。
あなたは、早くお逃げなさい」

「しかし・・・!」

泣きそうに顔を歪める女性に対し、静かにユザレは語りかける。
「この星の文明はもう滅びます。多くの人はギジェラと共に滅びる道を選択してしまった。
他の星を求め、土地を探しに行くことを決めた彼らが、永住の道を見つけることを祈ります。
さあ、あなたも早く」

「・・・っ。失礼します・・・!!」


女性はユザレに一礼すると、走り去っていった。
他の土地に向かう集団と合流するのだろう。


ギジェラの花粉により、多くの人々は夢の世界に行ってしまったままだ。
そんな世界をあざ笑うかのように、大いなる闇が今、世界を埋め尽くそうとしている。
闇に、閉ざされれしまう前に、しなくてはいけないことが残っている。

ユザレは建物の奥に進むと、銀色の円盤が安置してある台の前に立ち、
手のひらをかざした。

「認証コード、TREA・KUNU
起動設定、GMOWRRUUZBAA
人口知能プログラム、知能認定は、地球星警備団ユザレ」
素早く、必要な情報を詠唱していく。



・・・ティガ!!


ユザレの脳裏に浮かぶは、信頼していた光の巨人。
我々人類を守護してくれたティガ。
彼は、我々の選択を見守り、光となって自らの星に帰ってしまった。
しかし、彼らの体は残っている。
この、神殿に。


ゴルザとメルバは、いつかまたこの星にやってくるだろう。
その時に、我々を守護してくれた光の巨人は帰ってきてくれるだろうか…
いや、我々は滅びる道を選んでしまった。
生き延びることを選んだ彼らも、他の星に旅立ってしまう。
我々の選択に干渉しない巨人は来てくれないだろう。

我々の星は、自らの手で守らなくてはならない。
我々は、この星の守護を、巨人に頼ってしまった。
だから今、滅びていくのだろうか・・・

我々の子孫がこの星で生きて居るならば、
彼らに我々と同じ道を辿らせてはいけない。


その想いでユザレは円盤にプログラムを組み込んでいく。
いつかの子孫たちのために。


英雄戦士の遺伝子を継ぐ者であれば、巨人像と融合する可能性があるかもしれない。
巨人へと変身することが出来た彼らも、今はもうただのギジェラに侵された人間になってしまった。
幾人かは他の土地へ行くのだろうか・・・


いずれくる終末の時に、
私の愛するこの星をどうか・・・


祈りを奉げると、最終プログラムを設定し、
タイムカプセルを打ち上げる。
崩れかけ、空が見えている神殿の発射台からそのまま打ち上げた。

自分のホノグラムを積んだカプセルは瞬く間に大気圏を突破し、
きらりと、小さな光を発して宇宙の片隅に消えていった。



「いつの時代にか、我々の子孫が、役立ててくれることを信じます」



遥かなる先の時代に想いを託し、
ユザレは瞳を閉じた。
瞼にうかぶは栄えた我らが文明の最盛期。
豊かな緑、豊潤な水源、宇宙の星々の星図、
未知への回答を求め、議論し合う人々。
人々は笑い、健やかに生きてきた姿が浮かぶ。


ゆっくりを瞳を開けると、
飛び込んでくる景色は荒涼とした景色。
まるで、廃墟のようだ。
いや、廃墟になろうとしているのだ。我々は滅ぶのだから。
辺りには灰色の砂埃が舞い上がり、黒煙と炎が広がっている。
誰かがギジェラを燃やそうとしたのだろうか、
燃え尽きていく黄色い花が視界に移った。
正気に戻った誰かだろうか、ギジェラを燃やしたのは。
しかし、もう遅い。
闇はもう、そこまできてしまった。
このまま、滅び行く世界。


ここで、初めてユザレは表情を崩した。
今にも泣き出しそうな、怒り出しそうな、
悲しみと、怒りが混じった表情で、空に向かって叫ぶ。

「私は・・・我々人類はこのまま滅びます。しかし、子孫たちよ!
どうか、この地球を・・・!!」



その時、建物が大きな音を立てて崩れた。
がしゃん、と、大きな破片が音を立て、ふわりと砂埃が舞う。



そして、ユザレの居た神殿の跡地にゆっくりと、闇が迫ってきていた。
ゆっくりと、確実に闇に染まっていった。






ULTRAMAN TIGA 15th Anniversary ~ TAKE ME HIGHER ~
開催時に彩夏様が出展して下さった作品です。
この度閉幕記念にお譲りいただきましたので、
引き続き皆様とご一緒に楽しませていただこうと思いこちらへ。
彩夏様、ありがとうございました。

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